笠松3号木の治療を公開するにあたり概要説明
令和4年(2022年)秋、一関市川崎町薄衣地内の「笠松公園」で岩手県指定天然記念物の「薄衣の笠松3号木」の治療を行ないました。
当時、父親が樹木医をしていた関係もあり、「一関市教育委員会」と「笠松保存会」からの委託で治療とメンテナンスを行ないました。
笠松1号木は松くい虫の被害に遭っており過去に伐採されていますので、今回は残された「2号木・3号木」の治療となりました。
↓(伐採された跡の1号木切り株)
現在の笠松の主木は「2号木・3号木」の2本になっておりますが、その他にもあまり知られていない7本の残念な笠松があります。(笠松は合計10本)
↓(小さな〇部分)
主木2本以外の笠松は過去に手入れが行われた形跡がほとんどなく、2号木、3号木同様に高さもあり樹形もよく見ごたえはあります。しかし現在は管理が施されていないこともあり、枝枯れ等が多数発生して衰退の方向に向かっている「残念な」状態なのです。
主木の2本以外の他の笠松にも手をかけることができれば「笠松公園」はもっと見ごたえのある空間になることが予想つきます。
笠松保存会の会員の方々も高齢の方が多いのですが「定期的な草刈り」や「松くい虫対策用防除」など、笠松の保存活動に尽力を注がれておられます。
しかし笠松の保存活動では、会員の方々の高齢化や人員不足、合わせて資金不足、笠松への関心不足等、昔よりも保存活動が減衰してきていることが原因で、笠松の管理が難しくなってきているようです。
治療の最中にも笠松に関心を持ち遠方から訪れた方もおりました。笠松は岩手県指定天然記念物なのですから、岩手県の笠松に関わる担当の方には、600年も生き延びてきたといわれるこの笠松にもっと関心をもっていただき、できるだけの援助を希望したいところです。
ここからは
笠松3号木のみどころをお伝え
笠松3号木に空いた大穴がどのようにしてできたのか?
笠松3号木がどれほどひどい状態になっていたのか
笠松3号木に関わる治療やメンテナンス状況をお伝えしていきます。
笠松3号木のみどころ
巨木で樹形に趣があり特殊な幹の状態をしている笠松3号木は ”変わった松の木だ!” と感じるかもしれませんね。
特に大きな空洞が幹や枝にいくつも空いている姿はとても珍しいので、これは笠松3号木のみどころですね。
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幹に空いた腐朽による大穴 1
もう少し近くに寄って大穴を見てみますか
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もっと近くに寄ってみますか
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さらに近くに寄ってみますか
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中もちょっと覗いてみますか
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幹に空いた腐朽による大穴 2
笠松3号木の幹には大きな空洞が空いている箇所が他にもあり、巨木でしかも特殊な幹の状態をしている ”変わった松の木” と何度見ても感じるはずです。
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もう少し近くに寄ってみますか
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もうちょい近くに寄ってみますか
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枝に空いた腐朽による空洞 1
通常は枝の中心の心材が腐朽します。
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もう少し中を覗いてみますか
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枝に空いた腐朽による空洞 2
枝の腐朽の空洞入口部。中はどうなっているのだろう?
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枝の中がすっかり腐朽して数m 向こうまで空洞になっているのがわかります。
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枝に空いた腐朽による奇妙な空洞 3
高い所にある枝の切り口部分ではこのようなちょっと変わった空洞が空いています。
中心の心材とその外側の層を取り巻く心材が二重に腐朽が起こっています。
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もう少し近くに寄ってみますか
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笠松3号木に空いた大穴がどのようにしてできたのか?
笠松3号木誕生から600年もの歳月のうち、いつの時代にできたのかはわからないが、空洞が生じるには理由があります。
それは、天災など自然に枝や幹が折れたり傷ついたりする「自然災害」。人為的に木を切るなどして枝や幹が折れたり傷ついたりする「人災」などでも空洞が生じる可能性はあります。
どのような災害であっても、幹や枝が折れたり傷がついたところからは自然界にはびこる腐朽菌が入り込み侵されて、幹や枝は枯れ空洞になることがあります。
なのでこれほど大きな空洞の入口の状態を見ると、この空洞の直径に見合った枝が折れたか切られたのだろうと考えられます。
この腐朽菌(きのこ類など)は、衰退や死滅した木を分解する重要な働きがあります。
この働きがあるために、自然界では枯れ枝などが腐朽・分解され、砕かれてなくなり、いつまでも存在しないように保たれているんです。腐朽菌はいわゆる自然界の掃除屋というわけです。
この腐朽菌の活動が過去から現在において、笠松にも起きてきたと思われます。
空洞は長い年月の間のどこかでできたのでしょうが、大きな空洞は腐朽部の壁がすっかり固くなっている部分が多くあることから、短時間でできたものではないようです。
現在は腐朽がおきる原因が少なく、腐朽が進行しないで現状を保てているのかもしれないです。
とはいえ、大きな空洞であるが故見えない部分や手が届かない部分があるので腐朽部分が全くないわけではないです。
幹の中心部分で真下に向かっている大きな空洞は現在も腐朽を続けているので、今回はできる限りその腐朽部分の除去と、合わせて殺虫剤と殺菌剤を散布または塗布する治療を行なうことになりました。
笠松3号木の治療前の状況
樹冠内が薄暗く日があまり地面に届かない状態
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それでは木の上に登ってみましょう。
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なんと!松の枝にヒノキ類が生えているぞい!!
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5mくらい上の横枝に何かの動物の溜め糞!
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笠松2号木と同様に、枯れ葉枯れ枝や松ぼっくりがギッシリついていてひどい状態だ
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どこもかしこも枯れ枝ばかりでひどい状況!
遠くからでは樹冠しか確認できないが、近くで観察しないと樹冠の内部で何が起こっているか到底わからない!
笠松3号木の治療中の状況
笠松3号木の治療のメインは「枯れ枝・枯れ葉の除去」と「腐朽部(空洞部)の腐朽材処理と殺菌」「枝にはびこる地衣類除去」です。
土壌が湿地の傾向があり松にとってよくないことから、土壌改良として土を和らげる作用のある腐葉土を現在の土壌と混ぜる作業を行ないます。
メインの枯れ枝除去作業中!作業者はいったいどこにいるでしょう?
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枝にはびこる地衣類除去
作業前
地衣類(苔の仲間)がギッシリと枝にこびりついている。この地衣類は湿気が強いとどんどん増えるので、枝や新芽を覆い成長できなくなり枯れます。
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作業後
ほぼ全枝なので地道な作業ではありますが、地衣類を除去しただけでこんなにきれいになった。
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地衣類を取った直後の枝はしっとりと湿っていた。それだけ水分を保っていたのだろう。
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空洞処理
空洞内の腐朽して柔らかくなっている心材を取り除いてます。
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結構な量の腐朽材がでます。
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最後に殺菌剤を散布して空洞処理は終了です。
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土壌改良
笠松3号木周辺の半径5mくらいの草を刈り、土を柔らかく耕し・・・
腐葉土を耕した土壌と混ぜ合わせて慣らしたら作業完了
支柱の応急処置
仮設で、支柱の応急処置は済んでおりますが、相当傷んでいるので近い将来全支柱の交換が必要です。
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笠松3号木の治療前と治療後の比較
樹冠内部では松ぼっくりと枯れ枝枯れ葉を除去する手入れがメインの作業でしたが、それだけでも外観的に違いが表れています。
ちなみに、笠松3号木の全治療の作業工数は、笠松2号木と同様に15人工(1人で15日)かかっております。
ここからは、治療前と治療後をほぼ同アングルで写したので比較してみてください。
作業前 1
作業後 1
作業前 2
作業後 2
作業前 3
作業後 3
作業前 4
作業後 4
作業前 5
作業後 5